食用きのこ情報
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| きのこと健康 連載6 |
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池川哲郎
日本統合医学研究会 常任理事
NPO統合医療普及協会 理事長
元金沢大学生命科学教室 教授
薬学博士
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きのこの生理活性と機能性6
一動物実験で証明されたきのこの発癌予防メカニズム−
前回は薬の効き方とプラセーボ効果について書きましたが、「こころ」と「からだ」の相関をホリスティック(全体的)に考える科学が必要になってきているので、そのような生体内の相関反応について医学、薬学など関係学会で論じられたり、末期の癌の患者さんに対する緩和医療の問題からも、内分泌を含めて精神神経免疫学が注目されるようになったわけです。またインドではきのこを食べないということについて、いろいろな理由を聞きますが、一つは偉い人や聖人が毒きのこにあたったという話もありますが、それは本当はきのこではなかったという説もあります。いずれにしても毒きのこをどのように避けるかは昔むかしの人々にとっては、大変な問題だったと思います。今回インド、バンガロールの学会でお会いしたタイ、チェンマイ大学医学部のスタジット教授は、こんなことと言っておりました。インドは古代から伝統医学ではエネルギーということを重要視しています。きのこはエネルギーがないというのも理由でしょうと。昔むかしの人々は現在の飽食時代と異なり、たえず飢餓と闘ってきたと思います。欧州の研究者の話を聞いていると、人がきのこを食べ始めたのは、飢えてどうしてもそれに手を出して食べなくてはならなくなったときからだという説があります。
ところで、日本ではどうであろうか。現在日本は一年中いろいろなきのこがたくさん食べられており、それは世界一だと、このシリーズでも書いてきましたが、古代ではどうだったのでしょうか。縄文時代の日本の北のまほろばは、これまで現代人が想像していた以上に、豊かな食生活を送っていたことが遺跡の発掘でわかってきました。そしてそういう遺跡ではきのこの土製品(きのこの形を土で作って焼き物)もたくさん見つかっていますが、食べていたという証拠はまだ見つかっていないようです。縄文時代にはマツタケはまだ日本人の視野のなかには入ってこなかったし、縄文人がマツタケを賞味することはなかったということですが、鎌倉時代になると、マツタケを贈答品として用いた記録が残っているのであります。しかしヒラタケの方がむしろ早くから食べられており、古くはマツタケはなくて、ヒラタケが貴重な贈答品として使われていたということです。(佐原真著、「食の考古学」、東京大学出版会)ヒラタケは現在も欧州、特に東欧やロシアでよく食べられていますし、それはかなり古くからと想像されます。
ヒラタケの抗癌活性の研究は我々が最初にやったので、ヨーロッパの研究者は私のことをよく知っておりますが、この頃はヒラタケに関するいろいろな研究論文は、東欧諸国から多く出てきます。
我々がヒラタケを取り上げた当時は、「シメジ」という名前で市場に出回っていたので、「シメジ」といわれているヒラタケとことわって発表していましたが、そのうちにヒラタケの名前が市場でも一般化してきました。ヒラタケとカンタケはよく似たきのこで切片を顕微鏡で見ないと区別が付かないのですが、当時農林省の林業試験場におられた青島清雄先生に教えてもらいました。当時の市場に出ていたものはやはりヒラタケが多かったようです。
その後にブナシメジが、栽培されて市場で回るようになり、「やまびこほんしめじ」という商品名で売り出されようになってきました。そして市場ではヒラタケを「シメジ」、ブナシメジを「ホンシメジ」と呼んで区別していたのはご存知の通りです。しかし学問上、分類学上でホンシメジというきのこは、マツタケと同じ菌根類で、栽培がむずかしいきのこです。きのこにでは「匂いマツタケ、味シメジ」という言葉はよく言われるフレーズですが、ここでいうシメジは分類学上でいうホンシメジであります。ブナシメジもエノキタケも、マツタケ、ホンシメジと同じくキシメジ科に属するきのこです。そういう経過がありましたが、今ではブナシメジで用いられている前出の商品名「やまびこほんしめじ」も、「やまびこしめじ」に変えられています。ヒラタケ、カンタケが味などの面でブナシメジに押されてきたということになるわけですが、東欧のきのこの研究者にそんな話もしたこともあります。ヨーロッパではヒラタケは、オイスター、マッシュルーム(牡蠣きのことでもいうことになります)として人気があり、よく食べられています。
我々が国立がんセンターでブナシメジ(商品名:やまびこしめじ)を取り上げて、いろいろ抗癌活性を発表してきましたが、そういうこともブナシメジが急速にポピュラーなきのこになった理由ではないかと思っております。しかしそれの評価はほかの人に任せましょう。ブナシメジについてひと通り抗癌作用の検討した後で、このシリーズの第三回で簡単に書きましたように、エノキタケの生産農家の人が、一般の人に比べて、癌で亡くなる比率が少ないという結果が出ていたので、本当に食用きのこを食べていると癌になりにくいかやってみることにしました。前からそれを確かにすることを何か出来ることをやって見たいと思っていましたが、動物実験でそういう実験をやるのには、やはりかなり手がかかるし、費用もかかるし、それよりもうまくいくかどうか皆目わからない。しかし研究というのは、はじめからわかっていることをやるのではないと思い、またエノキタケの生産農家の疫学調査を始めたときのことを思い出して、とにかくやってみることにしました。だからこの実験を始める前には、いろいろ予備調査的な実験もやり、いろいろディスカッションもして、以下に述べるような実験を組みました。先ずブナシメジ(商品名:やまびこしめじ)の子実体の乾燥粉末5%を通常の餌(CE-2)に混ぜた飼料を作り、その餌でマウス、36匹を飼育します。一方の同じ数のマウスを通常の餌(CE-2)で飼育して、それを対照群とします。そして飼育を始めてから一週間経った後、強力な発癌剤であるメチルコランスレン0.5ミリグラムをオリーブ油に懸濁して、対照群ときのこ添加飼育群のすべてのマウスの皮内に注射して、両群のマウスの発癌状況を観察しました。発癌剤を注射してから16週経つと、通常の餌を食べていたマウスが1匹に発癌が確認されました。そして30週から40週を過ぎる頃から、対照群では発癌するマウスがどんどん増えていったのです。そして76週経ったところでは、36匹中21匹に発癌が確認されました。一方ブナシメジ(商品名:やまびこしめじ)の子実体の乾燥粉末5%を混ぜた餌で飼育したマウスの発癌状況は図1に示した通りで、25週頃に2匹のマウスに発癌が確認されたが、30週を過ぎる頃から、対照群とに明らかに差がみられるようになり、76週ではきのこの餌で飼育したマウスは、36匹中3匹が発癌しただけだったのです。 この図(図省略)からもわかるように、44週を過ぎるときのこを食べていたマウスと通常の餌を食べていたマウスとの間には、統計的に有意差をもって明らかに発癌率の差が認められました。このようにエノキタケとブナシメジは、発癌を抑制していることが証明されてきました。この食用きのこの発癌予防のメカニズムは、きのこのもっている免疫賦活作用によると考えられますが、その他にきのこのもっている抗酸化作用によることがわかってきました。
キエフで初めての「きのこと健康に関する国際学会」を開催して以来、何回か国際学会できのこ、特にブナシメジやエノキタケの研究結果を紹介したので、問い合わせやきのこの情報が海外から寄せられます。米国のきのこの専門家であるスタメッツ博士がオレゴン州の山でこんな大きなブナシメジが取れたと、その一種の写真を送ってきたので載せておきました。大きい天然ものです。(写真省略)
前回食品の安全性について書きましたが、西洋医学の元祖、ギリシャのヒポクラテスも「First, No harm(先ず害でないこと)」ということを強調しているのです。きのこであれば、何でもよいというように宣伝して健康食品を売られている向きもありますが、効くきのこと効かないきのこは区別することができるし、食用きのこと非食用きのこでは差がありますが、特に安全性の点でおのずから異なります。
しかし食用きのこでも、生産者が販売を始める前に安全性などについてあまり検討もしないで、目新しいものを作って、何でも売ればよいととしているという話を聞きました。そういうように科学技術を重んじないでいると、日本もどうなるかいささか心配です。いたずらに商業主義に走る企業は国を損なうでしょう。 |

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