食用きのこ情報
きのこと健康 連載7
池川哲郎
日本統合医学研究会 常任理事
NPO統合医療普及協会 理事長
元金沢大学生命科学教室 教授
薬学博士
きのこの生理活性と機能性7
大切なのは食べて安全なきのこ −新しいきのこ類の“安全性”も大切−
毎日毎日マスコミで報道されるイラク戦争が世界の関心の的になり、この原稿が雑誌に載るときにはどうなっているのか皆目わからないという時代です。世界の平和と安全を守ることはかくも難しいことです。ところで食品の安全性も同じかもしれませんと思いながら前回それについて考えました。そんな時に東京の地下鉄やJRの電車に乗っていると、プリン体を減らしたビールができたという広告が目についたので、菓子のプリンかと思ってみると、核酸成分のプリン体だということがわかりました。ビール会社各社はプリン体をカットしたビールや発泡酒を発売していることを知り、プリン体は健康のために人によっては摂取量を制限する必要があると謳って売っていることを理解しました。
最近ある先生から健康食品の誇大宣伝の問題点を指摘した新聞記事(静岡新聞、信濃毎日新聞など、3月12日朝刊)が出ていることを教えられて読んでみまして、目が点になってしまいました。このことは有識者の間では、いつも困った問題と話題になっていたようです。アガリクスまたはアガリクス茸といっているアガリクス・フラセエ(Agaricus blazei)というきのこは、われわれが国立がんセンターで移植しているサルコーマ180を用いて中原先生がはじめられた所謂宿主仲介試験で検定して効くという結果は出ていないので、そのことを国の内外の学会や研究会で報告してきましたし、学術雑誌にも発表してきました。しかし医学博士号などをもった先生方の監修された本にはまだそういう誤った記載または孫引きがあるそうです。そのことは以前にも問題になったことがあると聞いてはいましたので、まだ訂正がなされていなかったのかと驚きましたが、監修された先生方には是非訂正していただくことをこの場を借りてお願いしておきます。
欧米諸国でよく食用に供されていて、日本では西洋マツタケ、マッシュルームとして売られているツクリタケ(Agaricus bisporus)は、アガリクスまたはアガリクス茸というこのきのこと同じグループに属するきのこですが、そのグループのきのこにはアガリチンという発癌物質が含まれていることは、以前から癌やきのこの研究者の間ではよく知られていることです。アガリチンは変異原性を持っていますが、それは生体内で代謝されて、より強い発癌をもっているヒドラジン誘導体に変わっていくので注意する必要があるのです(参考文献:菅原龍幸編、キノコの科学、144頁、朝倉書店など、図1)。したがってツクリタケの消費が多い諸国では、きのこは機能性食品としての評価が低いのです。そういうわけで最近いく種類も新しい食用きのこが発売されはじめてきたことについて、きのこの栽培の専門家の先生方が問題があると指摘されているのはよく理解されるところです。
きのこから離れて安全性と効率について考えてみると、原子力発電の安全性は第二次世界大戦後の近代的課題です。昨年わが国の原子力発電所のパイプにひび割れが起きていて、その事故を日本でも有数な電力会社が長い間隠蔽していたことが大きな話題になりました。その問題は未だ根本的に解決したわけではありませんが、この頃はイラク戦争の陰に隠れて忘れられそうになっています。石油に代わるエネルギーとしての原子力発電は安全性を守ることが最も重要な課題です。
およそ140億年前にビックバンが起きてこの宇宙ができたと言われています。そして今から46億年前にこの生命の惑星、地球が生まれたということです。しかし地球が出来た当初には地球上には酸素や空気はなかったのですが、今から20億年位前になると、藍藻類とよばれる藻の一種が大発生して、地球の環境は一変してしまいました。というのは藍藻類は光合成を行ってどんどん空中に酸素を排泄するようになり、地球は一面酸素で覆われるようになってしまいました。そうなると酸素を嫌うとかそれによって死んでしまうか地中に潜ってしまわないと、生きていけなくなってしまいました。しかし酸素を使って物を燃やしてエネルギーを獲得する生命体は大きなエネルギーを容易に得ることができるようになり、大繁盛するようになったのです。
しかしそれにもまた落とし穴がありました。酸素はときに活性酸素になり猛毒となってしまうのであります。だから生物の体の中では活性酸素ができたときに、それを難無く無毒化してやる装置がないと生きていけないという結果になります。そしてそういう装置や方法をもった生物が生き延びることができたというわけです。その装置というのは酵素(スーパーオキシダーゼヂスムターゼ)などのタンパク質やその他の生体内物質です。これは20世紀に人類が獲得した原子エネルギーの問題と同じで、安全性をどのように獲得するかということであり、地球という惑星に生きていくためにはそれが必要であったのであります。だから酸素は生物にとって両刃の剣といわれる由縁であり、効率と安全は人類の永遠のテーマです。
ところでこのシリーズでも述べましたように、ブナシメジ・エキス含有の餌を食べていると、活性酸素のラジカルを捕捉する活性をもつ物質が血液中に増えてくるという結果が得られたので、論文発表しています。またきのこの水抽出物について、抗酸化作用を検討した研究結果が岡山大学医学部の先生方によって発表されています。それは食用きのこの水エキスについて、ESR(エレクトロン・スピン・レゾナンス)を用いてラジカル捕捉作用を検討した研究であります。エノキタケやシイタケなど食用きのこ類の水抽出物について、強い酸化作用をもつ活性酸素のスーパーオキシッドまたはヒドロキシオラジカルのラジカルを捕捉する活性を検討されました。そして食用きのこのエキスとレモン汁を比較してみたのですが、きのこ類の活性はレモン汁よりも強いことがわかったのです。例えば非常に強い酸化作用をもつヒドロキシオラジカルに対してエノキタケのエキスが強い作用を示しました(表1、表2)。また名古屋大学の研究グループは、このような作用をもつ抗酸化活性タンパク質をシイタケから分離しています。タンパク質であるから熱で変性しますが、このタンパク質は、かなり熱に安定ではあると報告されています。
日本では次から次へときのこならば何でもよいとスーパーに並んできていますが、これまで私たちが食べてきた安くてよいきのこ(シイタケ、エノキタケ、ブナシメジなど)は安心して食べられます。ケインズ的経済主義の行き詰まりがいわれているときに、アメリカ的グローバルスタンダードに振り回されている日本経済はどうなることか、行き当たりばったりの構造改革で、「失政糊塗」を重ねてきて蟻地獄から抜け出せないでいます。そんなときに前回きのこの栽培の専門家の警告について触れましたが、ホモ・サピエンス(「知恵のある人」の意)からホモ・エコノミックス(「経済人」の意)への警告であったかと感じてならなかったわけです。しかし消費者は安くてよいきのこを食べているのが一番よいということには変わりがありません。スーパーからそういうきのこが消えていくのを見ると人間の全体性を見ない経済になってきて、経営者の経済人ぶりが透けて見えるようで、これもまた失政糊塗にならなければよいかと思っています。スウェーデンではソーラーやバイオマス発電で原子力発電の廃止を決定したということを付け加えておきます。
●
表1
きのこ抽出液
スーパーオキシドを
50%消去するのに必要な量(mg)
マッシュルーム
0.43
ヒラタケ
0.59
エノキタケ
0.70
シイタケ
1.80
ナメコ
7.20
レモン汁
6.30
(森ら、「食用キノコの活性酸素消去作用」1989より)
●
表2
きのこ抽出液
ヒドロキシルラジカルを
50%消去するのに必要な量(mg)
エノキタケ
0.08
ヒラタケ
0.08
シイタケ
0.60
マッシュルーム
3.50
ナメコ
7.00
レモン汁
0.35
(森ら、「食用キノコの活性酸素消去作用」1989より)