食用きのこ情報
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| きのこと健康 連載9 |
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池川哲郎
日本統合医学研究会 常任理事
NPO統合医療普及協会 理事長
元金沢大学生命科学教室 教授
薬学博士
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相変わらずSARSウイルスによる新型肺炎(重症急性呼吸器症候群)が猛威を振るっていますが、中国南部に発生するウイルスは動物からなんらかの方法で人間に感染すると考えられています。例えば、インフルエンザ・ウイルスについては、何度か流行したことがあったので、わが国の研究者の間でも関心が深く、研究が進められてきました。そういう地道な研究結果から、インフルエンザ・ウイルスの感染伝播について説が出されています。すなわちウイルスは鴨が運んできて鶏に移り、そういう動物から豚に移り、そういう動物から人へ感染するというのが確かなようです。
今回のSARSウイルスもハクビシンなどの野生動物からの感染が疑われています。新型肺炎は首都北京でも大流行して、そこから出ることも入ることもはばかられます。北京というと北京ダックは、彷膳の宮廷料理、満漢全席、東来順のマトンのしゃぶしゃぶと並んで、北京の代表的なグルメの味です。ご存知のように、北京ダックは鴨の皮の部分だけを焼いて小麦で作った皮に包んで食べるのですが、肉のところは食べないのが一般的です。しかし、肉もスープにして鍋物として食べると美味しいものです。肉のところは時にウイルスに汚染されているかもしれないので、皮だけ焼いて食べるという古人の知恵。鴨の運んでくるウイルスのことは昔から経験でその危険性を知っていたのでしょうか。人の知恵でありながら人知を超えたようなものを感じます。そして中国では免疫を高める漢方薬が売れているといいます。
ウイルスに感染した細胞にはそのウイルス遺伝子から作られる物質で細胞の顔(表面抗原)が変わってしまう。それを免疫細胞が「非自己」と認識してやっつけてしまって難なきを得ているわけです。最近暴力団関係の会社から秘書給与を肩代わりしてもらっていた保守党の代議士さんが、それまで看板にしていた長い髪を切ってテレビに出ていたけれども、普通の目立たない髪型にすると監視の目を逃れることができると考えたのでしょうか。感染細胞も何とか攻撃を逃れようと普通の顔をしたがります。それを免疫細胞が見逃すとヒトは感染症で倒されてしまう。また「非自己」と認識しても多勢に無勢ではかなわない。それが最近の免疫学の教えるところです。マスコミも以前と違って新聞、テレビであまり問題にしないでいます。このような事件はあまりに多いのでニュース性がないということでしょうか。こういうトレランス(寛容)は免疫でも見られることです。昨今、この国の社会の免疫監視機構が衰えているように思えます。これは国家社会の病理の始まりではないかと一抹の不安を感じます。
きのこの機能性といえば、免疫賦活作用のほかにコレステロール低下作用について述べなくてはなりません。きのこは古くから不老長寿に効果があることから、金子尚志先生(当時東北大学)がシイタケを研究されて、コレステロール低減作用がることを見出されたのが始まりです。これももうかなり前(1960年代)の話になりますが、シイタケのエキスが血中コレステロールを下げるということが報告されたので、日本の製薬企業が競ってその活性本体を解明しようと努めました。
暫くして、日本の二つの製薬会社の研究グループがほとんど同時に、しかも別々にその活性本体を分離して、それぞれ分離した化合物に一つにはレンチシン、他方にはレンチナシンという名前をつけて、化学構造も決定したという激しい競争でした。ところがそのシイタケから別々に分離した物質は、結局同一の化合物であることがわかり、現在はエルタデニン(eritadenine、化学名は、2(R),3(R)−ジヒドロキシー4−(9−アデニール)酪酸)という名前に統一されています。このエリタデニンは合成もされていますし、生合成の上で同属の物質がシイタケから分離されています。そういうことで、エリタデニンについて、ヒトでの臨床試験が実施されましたが、ヒトでは血中コレステロールを低下させるという結果は得られなかったので、保健薬にはならなかったというわけです。
そんな頃我々も食用きのこの抗癌研究をしていたので、それが本当かどうか一度やってみようと思って実験したところ、雄のマウスでは確かに血中コレステロールが低下するのですが、雌のマウスではそういう現象が見られませんでした。金子先生のはじめの頃の論文が雄のラットを用いて実験されていたので、何か性ホルモンに関係しているのではないかと思っていましたが、その後の研究ではそういう研究は見当たらないようです。それからしばらく経って、わが国の製薬企業の研究者がコレステロールの生合成を阻害して、ヒトの血中コレステロールを低下させる薬を開発して、世界に一大市場を獲得して現在に至っています。これも昭和30年代から日本において活発に行われたステロイド化学の研究の土壌の上に咲いた花であったといえるでしょう。
エリタデニンは前述のような結果になったけれども、シイタケは果たしてヒトの血中コレステロールを低下させないのだろうか、ヒトの臨床研究が鈴木慎次郎先生(当時国立栄養研)らによって行われています。その結果はやはりシイタケの摂取がヒトの血中コレステロールを低下させることがわかったのです。これはシイタケに含まれている食物繊維が関係していると考えられますが、それだけでは解釈できないところがあります。その後になってもマイタケやヒラタケなどその作用低下が報告されています。
また、これも動物実験ですが、いろいろなきのこのコレステロール低下作用について調べたところ、シイタケ、エノキタケ、ツクリタケ、キクラゲはほぼ同じ位の活性を示したけれども、そのうちエノキタケがよかったという報告があります。(荒川ら、「栄養と食糧」30巻9頁、1977)。しかしエノキタケにはエリタデニンの含有量はゼロという結果が出ているし、食物繊維の量もシイタケとあまり変わりはないので、興味深いところです。また、1990年代になって静岡大学の杉山先生らが出されている研究結果も貴重なものです。ここで目をひくのは、この頃スーパーでよくエリンギと並べて売られているシロシメジの結果です。このきのこは中性脂肪を増加させるという結果が出ています。このようなことは、プロバイダー(売っているスーパーの人、生産している会社の人)は知っているのでしょうか。時々スーパーにおいてあるきのこがそれであれば、消費者は答えを求めるでしょう。
ところで、血中コレステロール低下作用があった7種のきのこのうち、活性の強いニンギョウタケについて杉山、河岸両先生(静岡大学)らはその活性本体の単離を試みられて、エリタデニンとは異なる化学構造を持つ活性物質を単離されています。
もう一つ、きのことして注目しておかなければならないことは、先に書きましたコレステロール低下薬として臨床で使われている所謂スタチン系の薬剤ときのこのコレステロール低下作用とは、作用点が異なるので、併用効果があるかもしれませんし、性別や人種差など遺伝子レベルで解明されることが期待されます。
この頃はヘンチントンの「文明の衝突」理論で、近代の戦争を説明しようとする試みもありますが、食生活については、むしろ「文明の融合」によって、Slow, but steady(ゆっくりとしかも確実)に形成されてきたものです。
前回、食の特産でマクドナルド化という危うさについて考えましたが、食に関してはスローフードかgo slow(ゆっくりやろう)がよいと思っています。だから以前から「おふくろの味」を大切にしてくださいといってきました。但し、日本のおふくろの味は時に塩っぱ過ぎるので、塩分を減らした『「おふくろの味」但し塩分の少ない』を勧めてきました。いつもこの「減塩」の但し書きを強調しています。そうすれば日本の「おふくろの味」は世界で一番だと思います。急ぎすぎた前世紀から、人間の顔をした経済を作らないと日本は再生しない。それには、出来ることから考えてみるのも一方ですが、一人ひとり自分の生活、例えば食生活、選挙での一票などに取り入れればよいと思っています。
シイタケ、エノキタケ、ブナシメジ、マイタケなどは欧米から見れば、明らかに日本の特産です。前にも書きましたように、この頃日本の食用きのこの機能性は世界で注目されています。日本の食用きのこの生理作用は、彼らにとっては“特産情報”です。しかしどんなきのこを食べればよいか、作った人の顔が見えるようなきのこを食べたいと思うのは、消費者の偽らざる気持ちでしょう。 |

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