食用きのこ情報
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| きのこと健康 連載11 |
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池川哲郎
日本統合医学研究会 常任理事
NPO統合医療普及協会 理事長
元金沢大学生命科学教室 教授
薬学博士
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きのこにいろいろな生理活性があることがわかってきましたが、以前もこのシリーズ(4月号)でお知らせしましたように、この7月17日からタイのリゾート地、パタヤで第二回のきのこと健康に関する国際学会が「バイオ・タイランド2003」の一つとして開催されました。それはきのこの学会だけでなく、生理活性物質と多様性、デンプンや米のバイオテクノロジー、ナノバイオテクノロジー、農業生産物とその安全性という農業関係の合同国際学会であり、世界20カ国以上から800人以上の参加があったということであります。
先ずワッサー教授(イスラエル、ファイファー大学、International JMedMushroomsユ編集委員長)が基調講演を行いました。ワッサー教授の講演はきのこに関する研究史や抗腫瘍多糖体について述べられておりました。その他きのこ関係ではグリースベン教授(オランダ、ワゲニンゲン大学)のマッシュルームの生産と栽培に関する講演で、中国などアジアできのこの生産が伸びていること、ヨーロッパではオランダの生産、栽培の努力について価格の面についても話をされました。またタイのバイオテクに来ておられるハウエルージョンズ先生のブータンなどヒマラヤで見つけた冬虫夏草類(3月号参照)の講演などが興味を引きました。
日本からは静岡大学の河岸先生がヤマブシタケの神経成長因子合成促進物質の研究について講演され、臨床研究にも言及されたし、マイタケのD−フラクションについての研究(児玉、難波先生、神戸薬大)などの発表がありました。私も我々の研究を紹介しながら、これからの研究について問題を提起しておきました。いつも外国の学会に出席して感じることは、きのこに関しては日本が国際的に注目されているし、特に日本の研究に関心がもたれていることです。
今回特に感じたことは、タイは農業国家であるという意識をもっており、政府もまた強力にこの国際学会を後押ししていたということで、うらやましい限りでした。SARSの関係で欧米、日本の研究者が若干少なかったという印象でしたが、タイの若い研究者がたくさん参加していたことには驚きました。そんなところにも国家の意欲というか威信というか、国の意気込みを感じました。特に開会式にはマハ・チャクリ・シリドーン王女が出席されて挨拶されたことでもわかるように、国を揚げて産業の育成に力を注いでいることがうかがわれます。
この国際学会はタイの国立機関であるバイオテクが主催したものであり、バイオテクはバンコクの郊外に最近新しい近代的な研究施設を建設して、以前にも紹介したように食用きのこの栽培研究を行っておりました(3月号参照)。今回はその技術でまだわずかではありますが、パラソール茸(学名は、Macrolepiota gracilenta)という名前で国内で売り出されていました。タイで最もよく食べられているきのこはフクロタケでありますが、それは中国南部地帯、香港など東南アジアでも同じ南の国でよく食べられています。亡くなられた森産業の森喜作先生からお聞きした話ですが、まだ毛沢東の鎖国時代に広州に入ってフクロタケを持ってくるときに、きのこを股の間にはさんで国境を超えて持ってきたという話ですが、それがフクロタケの保存に最もよかったそうです。その後日本で食べられていたフクロタケの多くは、その菌株の子孫でしたでしょう。我々もフクロタケの研究をやりましたが、南国生まれのきのこだけあって、予実体でも菌糸体でも他のきのこよりも温度を高めにした方が生育がよかったのです。
タイでフクロタケの次によく食べられているのはヒラタケですが、首都バンコクでもスーパーが競い合ってきのこを並べて売っております。フクロタケ、ヒラタケ、シイタケなどが並んでいましたが、エノキタケもあり、それが農業省の技術援助のもとでやっていると書いてありました。そういうように自国の農業に対する国の力の入れ方は強く感じました。
ところでタイでは日本のしゃぶしゃぶあるいは寄せ鍋のような鍋料理があります。現地の人が「スキ」と呼んでいるそうですが、スーパーにはその専門のレストランがあり、お客さんで賑わっていました。日本では鍋料理は専ら冬に多く食べますが、常夏のタイでは一年中食べているようで、確かに鍋料理は消化もよいし、家庭のだんらんには最適です。そのスキには必ずエノキタケが出てきたのには驚きましたが、日本の研究も少しずつ輸出されているのかもしれないと感じた次第です。
このシリーズで前にも書きましたように、食品(健康食品も含めて)の安全性は重要な問題ですが、これはこの国際学会の一つの重要なテーマです。古く西洋医学の元祖であるギリシャのヒポクラテスは「First, No harm」「先ず害でない」ということを強調しているのです。新聞などによく宣伝されて日本で売られているある種の健食きのこについては、外国の研究者などが安全性について警告していることを書き添えておきます。
もう一つの問題は、昨今では製品の有効性が過度に喧伝されたり、誤ったデータが書物になっているという問題でありますが、これは製品の提供者が過度な宣伝によって販売する商業主義から生じる問題であると考えます。こういうことに対する規制は国によって異なるわけですが、あまり過度になると業界が自分で自分の首を絞めるようなことになってしまわないかと心配します。とにかく研究者は正しい情報が消費者に届くように努めるべきでありましょう。したがってきのこ類の生理活性を論ずるに当たっても、科学的研究データに基づいた証拠を積み重ねる必要があります。あくまでもEBM(Evidence-based medicine 証拠に基づいた医学)でなくてはならないのですが、それにはもっともっときのこの生理活性についても研究する必要があります。前述したように、日本でもタイと同じ位、いや数分の1でも国が研究に関心をもち、真面目にやっている研究者に積極的に援助して欲しいと思うのは私だけではないでしょう。そこで得られた結果を適切に正しく消費者に伝えるようにしなくてはならないと思っています。
このように考えてくると、健康食品は現在たくさん売られておりますが、それを摂取するかどうかは、消費者の「自己責任 Self responsibility」に任されています。ここで消費者に対して「自己責任」を唱えるならば、当然その一方でプロバイダー(供給者)は「説明責任 accountability」が問われることになりましょう。従って以上述べたいくつかの問題点については、マスコミ関係を含めた関係業界も行政も、また学会もさらに真摯に取り組まなくてはならない問題であると考えています。
ある種のきのこは免疫を賦活する作用があることはわかってきたので、免疫と遺伝子解析について、考えてみたいと思います。免疫はよく「自己Self」と「非自己not self」の認識であると言われます。それは一人の個人とそれ以外の人との差または区別ということになりますが、一人の個は独立して、他と異なるところであります。一方でヒトとしての共通性をもっているわけです。ヒトの遺伝子が解明されて、発現する酵素の活性などから、治療、予防の上でそれぞれ個人によって差があることがわかってきて、いわゆる「オーダー・メイド」または「テーラー・メイド」の治療や予防の可能性が論じられるようになっています。それは免疫における「自己」と「非自己」の認識という問題と共通性をもっていると考えられ、ヒト・ゲノムの解明によって個人の特徴とあるいはある特徴を共有するグループがわかってくるようになると、それは東洋の伝統医学でいうところの「証」という概念と共通性をもつことになると思います。日本語で証とは「あきらかになる」ということであり、また「事柄を理解できるようになる」という意味の言葉でもあります。この新しい世紀の終りには、免疫でいう自己と非自己の識別が遺伝子の言葉で語られるようになるのではないかと想像していますが、そうなればがんの治療も予防もまた遺伝子レベルで論じられるようになりますし、きのこのどういう成分がどういう遺伝子またはその発現に作用するか論じられるようになるかもしれないと思っております。
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