食用きのこ情報
きのこと健康 連載13
池川哲郎
日本統合医学研究会 常任理事
NPO統合医療普及協会 理事長
元金沢大学生命科学教室 教授
薬学博士
きのこの生理活性と機能性13
オランダ医学菌類学会の報告 −注目される菌類感染症の治療法−
ヨーロッパの秋は美しい。日本は今年、何10年振りの冷夏だったが、9月はついこの間まで残暑が厳しかった。昨年のヨーロッパは夏に水害に見舞われ、オスロの国際細菌学会に来たときは、飛行機の中から増水したダニーブ川が見えた。しかし今年の夏はもの凄く暑かったという。報告されたところによれば、幾人もの老人が暑さで亡くなったとのことである。今回の学会でも食事の時など、そんなことが話題になったし、地球環境、異常気象はヨーロッパ、アメリカ、日本などという国境を越え地域を越えて起こっている。21世紀の人類の大きな問題である。
今回の学会は、第9回Medical Mycology(医学菌類)欧州会議と第7回Trends in Invasive Fungal Infectionが合同で行った学会で、9月28日から4日間、オランダ アムステルダムのオークラホテルで行われ、臨床の先生方を中心に1000人以上の参加があった。
このオークラホテルは、東京のオークラホテルの系統の高級ホテルで、このような会議にもよく使われるようである。この学会は、感染症の治療や臨床の細菌検査などが主な話題だが、ヨーロッパ以外の低開発国では感染の疫学調査などの発表もあった。一般の人から見れば、病原性菌類はもうあまり問題にならないのではないかと考えられがちだが、婦人科、皮膚科領域などではまだまだ問題がたくさんあるようで、参加者も熱心に発表に耳を傾けていた。特に、HIV感染者が増加してきており、それにともなう菌類感染症の治療や末期癌患者にみられる重篤な細菌感染症が話題になっていた。このような菌類による感染症が臨床の場で論じられると、必ずさらに有効な切れ味がよく副作用のない薬が求められる。ここでも欧米、日本を含め数社が開発した新しい抗菌物質について、臨床研究の結果を報告していた。私も若い頃に微生物化学研究所で新しい抗生物質の研究をしていたので、世界の会社がこのような学会に出てくる新薬発見の哲学に興味を持ったが、会社の人達の説明では納得いくようなことはあまり出てこなかった。
きのこは菌類であり、毒きのこもあれば、薬用・食用きのこもあるが、病原性菌類とは反対に人に役立っているきのこが中心のシンポジウムが開かれた。オランダのワーゲニンゲン国際植物研究所のグリースペン教授が提唱したものでした。講演者は、グリースベン教授のほか、ワーサー教授(イスラエル、ファイファ大学)、ゾンネンベルク教授(オランダ、応用植物研究所)と、私であった。前々から国際学会(菌類またはきのこの)で話題になっているように、アガリクスの学問上の名称の誤りが指摘された。私以外の先生方はその道の世界的権威であり、日本でも誤りは直すべきである。
今回は臨床医の方が多かったので、私はエノキタケとブナシメジの研究をもとに、EEM(エノキタケ、ブナシメジ、加工抽出製剤)の臨床研究に時間をさいて講演した。エノキタケの抗癌研究も一緒にやった田中茂男先生(当時北信病院)は、ご自身が大腸癌になられて、エノキのエキス(EEM(Extracts of Edible Mushrooms)の一つ)を飲んで、そしてその後の皮膚癌も治療したという。これは2001年に「Skin Cancer」というポルトガルの医学学術誌に掲載されたので、知っておられる人もいた。そんな訳で、私のところにポルトガルの医師の方から、母が癌になってしまったけれど、よい食べ物かサプリメントを教えてくれないか、というようなメールも入った。
また、1970〜80年に、長野県のエノキタケ生産農家の癌死亡率を長野県全体の癌死亡率と比較したが、こういう研究を地域相関研究(Ecological study)といっている。これについてはもっとはっきり知りたいということで、1998年から国立がんセンター研究所臨床疫学部長 津金昌一郎先生、花岡知之先生、それに長野県農村工業研究所を中心に、長野県厚生連の4病院(佐久、松代、篠井、北信)の先生方が協力して行ってきた。
ケースになる患者数が必ずしも多いというわけではないが、消化器癌を中心に行ってきた。そうするとブナシメジ、ナメコでは「ほとんど食べない」人が胃癌になる確率を1とした場合に、「週1回以上食べる」人は、どちらも0.56に減ってしまい、エノキタケでも「週3回以上食べる人」が0.66、シイタケが0.95で、差が見られたそうだ。
今回の私の発表では、数日前に日本癌学会の年会でこういう研究が発表されたということだけ簡単に紹介して、近いうちに発表される原著論文を見ていただくように論じておいた。これについて日本の某大新聞に、誤解を招くような小さい記事があるそうだが、エノキタケ、ブナシメジ、ナメコは我々の実験でも経口投与で抗癌効果が証明されている。こういう発表をすると、これまでもよくあったそうだが、地道な研究を一生懸命努力してきた人が報われずに、言い方が少し悪いが、結果を横取りして自分のきのこの宣伝にだけ使っている人がいるという。こういう事実は、本誌の読者より消費者がよく見ていることであろう。こういう商業主義的矛盾は、前世紀から積み重ねた矛盾であるが、今後は消費者の力が加わって、なくなっていくことを望んでいる。例えば今回の学会や雑誌などでよくイラク戦争の話題になったが、戦争開始時に政権の商業主義的情報操作があったと言われ、戦争の終結を宣言しても今だに泥沼化している。ヨーロッパとアメリカはなにかにつけて異なる道を進んでいるようだ。
(10月2日アムステルダムにて)