食用きのこ情報
山の幸マガジン/日本特用林産振興会情報誌
特産情報に「きのこと健康」というタイトルで当研究会の常任理事である池川哲郎先生の連載が始まりました。その内容を紹介します。

きのこと健康 連載1
池川哲郎
日本統合医学研究会 常任理事
NPO統合医療普及協会 理事長
元金沢大学生命科学教室 教授
薬学博士

国立がんセンターで始めたきのこ研究
秋といえばきのこの季節です。私も北信州の飯山という長野県の最北の町で生まれ育ったので、子供の頃は秋になるときのこ狩りに近くの山へよく連れて行かれたものです。
今も覚えているのは、愛宕さんという神社があるその裏山へ叔父に連れられてきのこ狩りに行った時のことです。土地ではジコボというきのこやヒラタケ、エノキタケがよく出ていて、採って帰ってきて夕食時に味噌汁に入れてもらって食べた時の美味しさは今も忘れません。
エノキタケといえば、今は色が白くてヒョロッとしたきのこを思い浮かべられるでしょうが、野生のエノキタケは柄が太くて、傘を広げたきのこです。現在、スーパーや八百屋で売っているエノキタケは人工栽培で色も見た目も違っています。今、日本では秋といわず一年中幾種類ものきのこを食べることができるようになっていますが、これは日本の栽培技術を開発してきた先人の努力の結果でしょう。自然の味もまた懐かしく美味しいものですが、自然のきのこの美味しさを追い求めるあまりに、毒きのこにあたることもあるので、この秋も山に入ってきのこを取って来られたときには、特に毒きのこに気をつけましょう。
シイタケやヒラタケに似ているツキヨタケ、クリタケに似ているニガクリタケなど、食用のきのこと区別が難しいきのこがたくさんありますので、こういうきのこの鑑定は専門の人に見てもらうべきだと思います。
今年の夏もきのこの思い出がある故郷の裏山を訪ねてみると、開発が進んで住宅がたくさん出来て、もう昔の面影がありませんでした。少し寂しい感傷はありましたが、暫し自分の来し方、行く末を思いました。私がきのこの制癌研究を始めたのは、故郷を離れて幾年も経って、東京築地の国立がんセンターに赴任したときでした。その頃は故郷のきのこ狩りのことは忘れていましたが、きのこを研究テーマに取り上げて、共同で東大薬学部生薬学研究室の仲間ときのこ狩りに行った時に、ひとりそんな故郷のきのこ狩りを思い出したものです。それからすでに35年経っています。

欧州でも広がるきのこの薬用研究
最近になると、我々がやってきたきのこ研究が世界的に注目されてきて、きのこの機能性が世界的にまた科学的に論じられるようになりましたが、その契機になったのは、やはり我々が国立がんセンターできのこの抗癌研究を始めたことにあります。今年、8月にもノルウェーのオスロで開かれた第7回国際菌類学会でも「きのこと健康に関するシンポジウム」がはじめて行われ、私もこれまでの日本におけるきのこ研究を紹介するように依頼されて講演をしてきました。
実は数年前からきのこの生理活性、機能性に関する国際学会を開いたらどうかという話がありました。それはきのこ類の活性に関する国際的学術雑誌があり、それを主宰する編集委員長をしているイスラエル、ファイハー大学のワッサー教授が提案してきたものでありますが、私もその学術誌の三人の編集委員の一人であるものですから、いろいろ相談を受けました。そして第一回「きのこと健康に関する国際学会」を2001年ウクライナのキエフで行うように決まりましたが、その時にどうしても私に会長をやれということになり、結局引き受けることになりました。そうして昨年9月ウクライナのキエフでとにかく第一回の「きのこと健康に関する国際学会」を開催しました。もう少し詳しく述べますと「薬用・食用きのこの健康管理と栄養に関する過去と未来の展望」ということになります。そういうわけで昨年はその学会の準備に忙殺されました。世界約40カ国から数百人の研究者が集まり、いろいろきのこの生理活性について発表がありました。
ここで気のついた講演について紹介しますと、まず香港中文大学で40年以上にわたってきのこの研究されているチャン教授。この先生は日本でも知っておられる方が多いと思いますし、今はオーストラリアで研究を続けられていますが、きのこは彼のいわゆる「ノン・グリーン革命」の旗手であるということになるわけで、この10年間で世界のきのこ生産はほぼ倍になっているということであります。その内訳はやはりアジアが圧倒的に多いのですがアメリカ、ヨーロッパでも増えています。これは日本、香港、台湾、中国南部などはアジア・モンスーン地帯にあり、多湿で気温が高いので、きのこが生えやすく、いろいろなきのこがたくさんあるということ、さらに日本では栽培技術が進歩しており、それに健康志向が重なって消費が拡大しているからです。さらにオランダのグリーンスベン博士がツクリタケ(西洋マツタケ)について講演されました。オランダは中国、アメリカについでツクリタケの第三の生産国であり、この30年で急速に生産が伸びていて、1999年では1970年の10倍近くに増えているということです。アメリカでも5倍位は増えているようです。ヨーロッパではそのほかヒラタケがよく食べられます。ヒラタケはオイスター・マッシュルーム(牡蠣のきのこ)と呼んでよく料理に出てきます。特に東欧ではよく食べられています。

エノキ、ブナシメジの有効性に注目
ご存知の方もあるかと思いますが、ツクリタケにはアガリチンという発癌物質が含まれており、ワラビと同じようなところがありますので、欧米諸国ではきのこには少し腰がひけております。ツクリタケはアガリカス類に属しており、我々の研究でもあまり効かなかったことも専門家の間でよく知られております。そんなこもあって我々が研究してきたシイタケ、エノキ、ブナシメジなどはそういうこともなく、研究をきっちりやってきたので、欧米先進国でも注目されています。私もキエフの学会では「食用・薬用きのこの健康に対する有用性」と題してキー・ノート講演を行い、我々がこれまでやってきたエノキタケ、ブナシメジなどの研究結果を紹介しました。そこでは海外ではじめてエノキタケ生産農家の疫学調査の結果について述べました。ご存知のように、エノキタケ生産農家の癌死亡率は一般の人よりも低いことなど強い関心がもたれ、その後海外からいろいろ問い合わせがあります。また、ワッサー教授がいわゆる健康食品の国の規制などについて、欧米諸国の事情や日本のことを紹介されましたのは興味をひきました。この点については日本はまだまだ問題があるようだと感じました。

来年6月にタイで第2回きのこ健康学会
この学会には欧米諸国の菌類の研究者たちが多数参加されており、これからはきのこやその他の食用菌類、例えばヨーグルトとか酵母が健康にどういう役割を果たしているかが重要な問題になるということで、前述した今年のオスロの国際菌類学会のシンポジウムが開かれたわけです。この国際学会で、きのこの機能性のシンポジウムが開かれたのは初めてでしたから、帰国してからも時々海外から問い合わせがあります。ここでは私の発表の他にワッサー教授のきのこ研究の一般的紹介があり、日本からは宮城農業短期大学湊教授の抗癌活性多糖体の定量に関する研究が発表されました。
第二回は来年2003年6月17日~19日にタイのリゾート地パタヤで開くことになっております。タイは冬中夏草類のいろいろな種類が豊富にあり、その資源としての応用に関心が持たれます。