食用きのこ情報
きのこと健康 連載4
池川哲郎
日本統合医学研究会 常任理事
NPO統合医療普及協会 理事長
元金沢大学生命科学教室 教授
薬学博士
きのこの生理活性と機能性4
ナメコ摂取で血液がサラサラに −抗酸化作用を有する食用きのこ−
昨年の11月から新幹線が青森の八戸まで「はやて」で入って行きました。寒い北国ではこの時期、鍋料理やきのこ汁が美味しい。青森では「あずましい」という言葉がありますが、美味しいものもあずましいといいますし、眺めでも味でも気分でもみな良いものはあずましいと表現するようです。「あずましい」という言葉は我が妻の如しということであり、あずましい妻を娶(めと)られた男性はどんなに幸せなことでしょう。
この季節はなめこ汁が美味しい。ところでなめこ汁を北奥州の人が言うと、ナメコズルと聞こえます。寒い時も暖かい時も、ナメコズルはあずましい日本の味です。我々の研究でも、癌を抑える阻止率がマツタケについで良かったので、何か心を引かれる想いがありました。ここでは古く我々が発表したデータがよくいろいろなところに取り上げられているので、その我々の行ったところを簡単に紹介しましょう。
マウス(ハツカネズミ)の癌であるサルコーマ180という癌をマウスの皮下に移植すると、固形癌ができます。そしてきのこのエキス、それは熱水で抽出した物ですが、それを腹の中に注射してどのくらい癌が小さくなるか、5週間をかけて観察します。5週間というのは長いので、初めは長期試験と言っていましたが、その試験で見ていると生物の持っている固有の免疫力を高めて癌をやっつけるということがわかってきました。それで宿主仲介性(Host-mediated)試験という名前で呼ばれるようになりました。その名付け親の中原和郎先生(元国立がんセンター総長)は大変息の長い先生で、筆者が国立がんセンターで研究をしていた頃でも、毎日毎日ご自分でマウスの実験をされており、それを如何にも楽しんでおられるような姿が今にも目に焼き付いています。79歳で亡くなられる一月ほど前まで実験されており、その息の長さは見習うところがあると今も思っています。
この抗癌試験では、メシマコブは効きましたが、投与量をちょっと下げると非常に効かなくなりましたし、アガリクス類は効きませんでした。ナメコは86.5%の阻止率を示し、マツタケにつぐ値でしたが、シイタケ、エノキタケ、ヒラタケなどとは本質的に差はありませんでした。ナメコはモエギタケ科のきのこで、その栽培ははじめ東北地方の冬の作物として普及してきました。ぬめりが強いのが特徴で、なめこおろしのような酒のつまみにもなりますが、そのぬめりの成分は粘性の高いペクチン質(酸性多糖体)であります。ナメコは効くきのこでありますが、我々が行った試験では、効くきのこと効かないきのこははっきりとわかれていました。勿論中間的なものもあるのですが、それはメシマコブを含めて食用きのこよりも良いとは言えないものであったのです。
ところでナメコについて言えば、最近面白い研究結果が報告されました。それは長野県農村工業研究所と公害衛生研究所の協同研究ですが、我々が癌に効くという結果を出してきた日本の家庭の食卓にのぼる普通のきのこ、エノキタケ、ブナシメジ(商品名:やまびこしめじ)、ナメコなどを食べていると、血液がサラサラしてくるというのです。人は血管から老いるといわれますが、血管という管とその中を流れる血液の関連も老化という生物として避けることができない事柄に関係していると考えられます。血液の流れが悪くなると心筋梗塞、狭心症、脳障害、老人性痴呆症など増加している循環器系の病気の原因になるので、血液の流れの良さが問題になります。
人の血液の流れの良さ悪さを測る方法が食品総合研究所の菊池裕二博士によって開発されています。それは人の毛細血管を再現する毛細管モデルを用いており、これは一般に血流測定に使用する装置であります。この毛細管モデルで人の血流を測定すると、健常人の全血液が通過する平均時間は50秒で、60秒を越えるとどろどろな血液判定であると判定します。
今回の実験では、協力してくれた女子大生(18歳から20歳)33名に11人ずつ3つのグループに分かれてもらい、1日1人50グラムのきのこを調理して、一週間毎日昼食どきに食べてもらった。そしてそれを開始する前と実施期間きのこを食べた後とに、各人の毛細管の血液の流れ具合を比較しました。今回の調査ではきのこを摂取しはじめる前に、前述した血流測定装置で測定した全血通過時間の平均値は、69.6秒であったが、きのこを摂取した後の平均値は42.7秒に変化しており、血流の改善が見られた。さらに実験開始前には60秒以上の_どろどろ血″の人が10人もおり、30%にのぼっていましたが、きのこ摂取後は_どろどろ血″の人は2人に減少していました。この実験結果から血流改善率を出してみると、ナメコが30.0%、ブナシメジ(商品名:やまびこしめじ)21.5%、エノキタケ18.9%で、ナメコは最も高い値を示しました。これらのきのこ値はいずれも青汁などと比べてはるかによい結果であったので注目すべきことと思っています。
我々も食用きのこの摂取が血液にどのような影響を与えるか、それがよい影響か悪い影響かを検討する研究をしました。まずブナシメジ(商品名:やまびこしめじ)の水抽出エキスは弱いながらラジカル捕捉作用があることがわかりました。ラジカル捕捉作用というのは活性酵素などがもっているラジカルをとってしまう一つの抗酸化作用です。それを測定する方法は、協同研究者の静岡県立大学の佐野満昭先生が確立した方法で行いましたが、既に学会でも発表していますし、論文にもなっています。
きのこそのものは弱いながらラジカル捕捉作用があるが、食べたいときはどうであろうかと考えて、普通の餌にブナシメジ(商品名:やまびこしめじ)の水抽出物を10%含んだ餌を作り、その餌でマウスを飼育します。一方の対照群は普通の餌で飼育します。こうして26日間飼育した後で、血液の液体成分を採取してその活性酵素のうちのラジカル捕捉作用を測定しました。その方法はそれぞれのマウスの血液の液体成分、血漿を分離して、そのなかの過酸化脂質定量用チオバルビツール酸反応性物質として測定しました。そのラジカルにはアルコキシラジカル(表1の結果でRTABHP)とペルオキシラジカル(表1の結果でRTAAAPH)がありますが、表1に書きましたようにペルオキシラジカルではきのこ群のマウスの血液はやや活性が増えていました。そしてアルコキシラジカルでは統計的に有意差をもってきのこ群のラジカル捕捉作用が増えていました。それと同時に血液中の過酸化脂質の量を測定しましたところ、表2でわかるように、きのこ群では減少傾向が見られました。
ところがアガリクス(しばしばアガリクス茸といわれているきのこ、A.blazei Mull.)について、そのエキスを投与して同じ方法でマウスの血液中の過酸化脂質を測定すると、アガリクス投与群のマウスの血液中の過酸化脂質が対照群と比べてかえって増えていました。食用きのことそうでないきのこの差が出ていたようです。ブラジルでは、ツクリタケ(西洋マツタケ、Agaricus bioporus)は食べられているが、アガリクス茸(Agaricus blazei Mull.)は食べられないということです。もちろん食べて食べられないものではないですが、あまりうまいものではないので、ブラジル人達は食べないようです。
昨年前半は食品の安全性と表示の問題が話題になり、それに関連して企業の社会的責任がしばしば論じられましたが、9月になると拉致事件が明るみに出てきて、マスコミの上では食品の安全性は少し影が薄くなってきたようにも感じられました。しかし我々の毎日の生活に欠かせない食品の問題であり、さらに健康志向する生活の上でもゆるがせにできない問題です。だからマスコミでは少々影が薄くなっても世間一般の関心は高いといってよいでしょう。消費者にとってみれば食品は毎日欠かせないものでもあるので、安全性の確保が先ず第一ですし、間違った情報におどらされないようにしたいというのは消費者のすべてが願うことです。
きのこの場合でも、食用きのこは我々の祖先が昔々の時代から長い間食べ続けられてきたものであり、身近なきのこの安全性はそうでないものと比べて安心です。今回エノキタケ、ブナシメジ、ナメコについて考えてみましたが、効用と安全性からも食用きのこに優るきのこはないような研究結果が出てきています。
表1.マウス血漿の抗酸化活性に対するブナシメジ子実体熱水抽出の効果
血漿
AOA
AAPH
(min)
AOA
BHP
(%)
対照群a)
12.6±2.9(12)
46.4±15.9(10)
ブナシメジ子実体群b)
13.1±2.2(12)
59.0±7.8(12)c)
平均値
a)CE-2通常の飼料で26日間飼育したマウスの血漿
b)10%ブナシメジ子実体熱水抽出物含有CE-2飼料で飼育したマウスの血漿
c)統計的有意差 P<0.05
表2.ブナシメジ摂取マウス血漿の過酸化脂質に対する効果
血漿
n
過酸化脂質(nmol/ml as MDA a))
対照群
4
8.4±1.8
ブナシメジ群
4
7.3±0.7
平均値
a)マロンディアルデヒド