近年きのこ類の生理活性や機能性が国際的にも関心が高まっている。中国や東南アジアでは栽培のエノキタケやブナシメジなどが一年中売られているし、欧米先進国でもきのこが良く食べられるようになっており、世界的に見て食用きのこの生産量は増えており、またきのこ類の機能性に関する日本の研究も国際的に注目されている1)。
1960年代から長い間我々は国立がんセンターできのこ類の抗がん作用を研究してきた。それはきのこ類から免疫機能を亢進して抗がん作用を発揮するような物質を探索することであった。古くからわが国ではサルノコシカケ科など硬いきのこががんに効くという言い伝えがあったので、当初はそのような硬いきのこの抗がん作用を検討したが、それほど強いものではなく満足のいく結果は得られなかった1,2)。そこで我々はわが国でなじみが深くよく食べられているきのこについて抗がん作用を調べてみると、強い活性を示した。その作用は直接がんを攻撃するのではなく、宿主の免疫を高めて間接的に抗がん作用を示すものであった。そして現在でよくいわれるBRM(Biological Response Modifier, 生体反応調節物質)を数多く分離し、その多くは多糖体やたんぱく質結合多糖体であり、我々が最初にシイタケから分離した抗がん多糖体は、β−(1−3)−グルカンの基本構造をもっており、後にレンチナンと名づけられて注射薬としてわが国で狭い範囲で臨床に用いられた1,2,3, 4)。そのほかスエヒロタケ菌糸体のグルカンも保健薬になっているが、エノキタケ、ヒラタケ、マイタケなどからもβ−(1−3)−グルカンが分離されており、同様な活性をもつている。それらの化学構造は6位から分枝する枝構造が少しずつ異なるものである。カワラタケの菌糸体から分離されたPS-K(クレスチン)はβ−(1−4)−グルカンを主とした多糖体にたんぱく質が混じった粗物質で、経口薬であるが、期待される効果は見られなかった。また我々が最初に取り上げたサルノコシカケ科のきのこのうち、メシマコブが当初は比較的活性が強かったが、表1に示すように投与量をちょっと下げると著しく活性が落ちてしまう。メシマコブは韓国では保健薬になっているが、このきのこは黄色い色素を産生するのが特徴であり、その毒性には十分注意をはらう必要がある。従って我々はそれを取り上げたときもその有用性には期待できないというのが結論であったが、今もその結論は変わらない1,2、4)。
前述したシイタケの多糖体などは注射でしか効かなかったが、エノキタケ子実体の熱水抽出物はVX-2というウサギの腫瘍に経口で効き、凍結外科療法との併用で相乗効果を示した1,9)。そこでその免疫賦活作用をもつ活性本体を解明したところ、比較的低分子量のたんぱく質結合多糖体であるEA6であることが解明された1,2、5,6)。さらにそれは経口投与でも優れた活性を示すことがわかった。 さらに経口投与によって同系腫瘍に効くものを求めてスクリーニングの結果からも、エノキタケの子実体から得たEA6の活性を確認出来たし、その菌糸体からはEA6の同族体のプロフラミン(分子量約13,000)を発見した1,2、7)。 これらの物質はルイス肺癌、B-16メラノーマなどの同系腫瘍に経口で有効であり、凍結外科以外の一般外科手術と併用すると、経口投与で相乗効果を示すことが証明されており、免疫賦活作用を示す。その作用機序は、マクロファージ、CD4(+)細胞(ヘルパーT細胞)を活性化し、NK細胞も活性化するなど免疫担当細胞の機能亢進によることが基礎的研究で証明されており、さらに臨床研究でも確認されている。このように広く一般に食用に供されているきのこから、経口投与で抗がん活性をもつ物質が発見されたのは当時はじめてであったし、後述する食用きのこのがん予防効果もその作用機序の一つは、免疫賦活ないし調節作用に基づくものと考えている1,2,6,8、9)。
2)発がん予防作用
わが国で広く一般に食用になっているシイタケ、エノキタケ、ブナシメジ、マイタケ、ナメコ、ヒラタケは、Sarcoma 180固形がんに有効であるが、果たして食用きのこが発がんを予防する効果があるかどうか、ブナシメジで実験した。先ずブナシメジ(商品名:やまびこしめじ)子実体の乾燥粉末5%を通常の餌に混ぜた飼料を作り、その飼料で飼育したマウス(36匹)と通常の餌で飼育したマウス(36匹)の二群に分けて飼育した。飼育後一週間目にすべてのマウスに強力な発がん剤であるメチルコランスレン0.5mgを皮下に注射して、マウスの発がん状況を観察した。その結果は図1に示したように、16週を過ぎた頃から発がんが観察されたが、30週を過ぎる頃から対照群ときのこ投与群のマウスで、発がん率に著しい有意差が見られるようになった。そして最終的に76週間観察した結果、通常の餌で飼育した対照群のマウスは36匹中21匹が発がんしたけれども、ブナシメジ乾燥粉末を添加した飼料で飼育したマウスはわずかに36匹中3匹しか発がんしなかった1,2、10)。
このような食用きのこの発がん予防に関する作用機序は、一つには免疫賦活活性に基づくものと考えられるが、きのこのもつ抗酸化作用も見逃すことはできない。たとえば食用きのこの活性酸素消去作用については、岡山大学医学部でESR法を用いた研究がある。すなわちりエノキタケ、ヒラタケなど食用きのこの水抽出物について、ビタミンCを多く含むレモン汁と比較したところ、食用きのこの方が強い活性を示したという報告がある12)。また名古屋大学の研究者によって、シイタケからは活性酸素捕捉活性をもつたんぱく質が分離されている13)。
我々もブナシメジの乾燥粉末10%含有する飼料をつくり、その飼料で飼育したマウスと、きのこ乾燥粉末の入っていない通常の飼料で飼育したマウスについて血中の抗酸化作用を比較検討した。両群のマウスをそれぞれの飼料で26日間飼育した後、その血漿を分離して、ラジカル捕捉作用を検討したところ、アルコオキシラジカルおよびペルオキシラジカルともにきのこ粉末含有飼料で飼育されたマウスの方がそのラジカル捕捉作用が強かった。ここでアルコオキシラジカルの場合は有意差が認められた。さらにそのときに血中の過酸化脂質を測定してみると、ブナシメジ摂取によって血中の過酸化脂質の低下が見られた。このように食用きのこの発癌予防作用は、単に免疫賦活乃至調節作用によるばかりではなく、抗酸化作用も関与しているものと考えている1,9,10,11,12,13)。
3)疫学研究
1960年代になって、エノキタケのおがくず栽培が広く普及して、その生産量は急速に伸びてきた。そして生産農家はきのこを多く食べるような習慣をもつようになった。筆者はエノキタケの抗腫瘍研究を行っている過程で、地元の北信総合病院と協同研究するようになり、そのときに北信州地域のエノキタケ生産農家についてわずかな疫学調査がなされているのを見て、これはそのままではもったいないと思って、県の農協に依頼してスポンサーになってもらい、広く全県にわたるエノキタケ生産農家と癌の死亡率について疫学調査を行うように働きかけ、この全県調査は北信病院のスタッフによって、1972年から86年まで15年間にわたって行われた。このような研究はいわば地域相関研究というべき疫学研究であるが、その結果は興味あるものであった。総調査年人数は174,505であり、長野県全体のがん死亡率は10万人当たり160.6であったが、エノキタケ生産農家のがん死亡率は97.1であった。また男女別に見ると長野県全体では男が10万人当たり90.8、女は69.3であったのに対して、エノキタケ生産農家は男が97.1、女が39.7であった。さらにその調査結果を5年毎で見ると、図1のようになり、長野県全体および男女ともに、がん死亡率は増加傾向にある。しかしエノキタケ生産農家も増加傾向が見られるが、その伸び率は低い。特にきのこ生産農家の女性では減少傾向が見られるのは興味深い。しかしこのような女性のがん死亡率の減少と食生活との関係について、明確な理由はわかっていない。一方最近緑茶をよく飲む女性では胃がんになるリスクが低くなっているが、男性でははっきりしないという研究結果が出ているので、参考になるかも知れないが、さらに詳しい研究が望まれる1、6、9)。
このような地域相関研究から、さらに詳しく食用きのこの摂取とがん罹患率について解明する必要があることということになり、長野県農村工業研究所と国立がんセンター研究所臨床疫学部が中心となり、県農協厚生連の病院の協力で、1998年から約5年間かけて疫学調査研究を行った。この研究はケース ・コントロール研究という疫学研究で、その分野で国際的にも評価の高い専門家の指導で行われた。厚生連の病院で胃がんまたは大腸がんと診断された人で、年齢が20歳から75歳までの人をがん患者の症例、ケースとして、その人に性別、年齢、居住地域などがマッチした人を1ないし2名を選んで対照、コントロールとした。この研究では胃がん症例 153人、その対照症例が303人、また大腸がんでは症例121人で、対照症例245人が研究対象になってもらった人々です。
本研究への同意を得て、現在国立がんセンターを中心にして行われている「多目的コーホートによるがん・循環器疾患の疫学研究」に準じて調査項目について質問に答えてもらった。ここで胃がんに関して調査に参加した人では、平均年齢がおよそ58歳、大腸がんでは59歳から60歳の間で、男性の比率が胃がんの場合で69.4%、大腸がんで62.6%であった。また半数以上の方がJA会員で農業に何らか従事していると考えられ、都会地に住む人と比べて野菜、果物などは多く摂取していると思われる。またきのこを食べる量は一般に野菜の食べる量と比べると量的には少ない。そして胃がんの結果を見ると、野菜全体、高カロテン含有野菜、低カロテン含有野菜、アブラナ科野菜、きのこ、いずれにおいても統計的に有意なリスクの減少は認められなかった。またきのこに関して大腸がんでは明らかな関連が認めらなかった。しかし図2に示したように、胃がんでは、ブナシメジ、ナメコでは、ほとんどきのこを食べない人が胃がんになる確率を1とした場合、週一回以上食べる人が胃がんになる確率は0.56にまで低減していました。またエノキタケでは、週一回未満しか食べない人を1とした場合、週三回以上食べる人の胃がんになる確率は、0.66に低減していた。なおこの場合シイタケでは0.95であった。今回の研究では症例数が少ないので、結果の統計的有意差を見出せなかったのかも知れないので、さらにこの種の研究が行われることを願っているが、前章で述べたように我々がマウスを用いてブナシメジで行った発がん予防実験とも符合しており、また地域相関研究の結果とも符合していると考えている1,14,15)。
4)EEMの臨床研究
これまで主として我々が国立がんセンターで行ってきた研究結果を中心にしてきのこの抗腫瘍活性、発がん予防効果について述べてきたが、そのような結果に基づいてEEM(Extracts of Edible Mushrooms, 食用きのこの抽出物でエノキタケ、ブナシメジの抽出加工製品)製剤が開発されており、それについて臨床研究を行って内外の学会に発表してきた。先ず進行がんや再発がんの患者さんは、一般にカへキシー(悪液質)という状態に陥り、それがさらに悪い症状を起こしてがん死につながってしまう。このような患者さんの状態のときに、ステロイド剤が用いられることがある。そこで進行がん(スタージ、III乃至IV)の患者さんについて、MPA(メチルアセトオキシプレジェステロン酢酸)で治療を受ける患者さん(10例)とEEMで治療を受ける患者さん(11例)を二群に分ける。両群ともに病状などの条件が同じになるように無作為に分けて、治療成績を検討すると、MPA治療群では臨床的レスポンスは全く見られなかったが、EEM治療群ではPR(部分寛解)が一例確認された。そしてそのレスポンスレートは9.1%であった。そのときに6ヶ月以上の延命効果はMPA治療群では20%(1/5)であったが、EEM治療群では75%(3/4)で、はっきりと差が認められた。また両群のQOLを観察すると、EEM治療群はカルノフスキー ・パーホンマス ・ステイタス・スコア、食欲増進、体重増加のいずれにおいても、MPA治療群より優れた結果が認められた。またEEM治療群で免疫細胞の活性化が証明されたことは基礎実験とよく符合している。 例えばT細胞のCD4/CD8比の増大が見られているのはその一例である1、16)。
次にEEMと がんの化学療法剤との併用療法に関して、臨床研究を行った。前回と同じように、進行がん(ステージIIIまたは IV)の患者さんを化学療法剤単独治療群(CT群)と化学療法剤にEEMを併用して治療する群(CT+EEM群)の二群に無作為に分けて、効果を判定した。CT+EEM群では25例中2症例にCR(完全寛解)が認められ、PRは8例で見られたが、CT群ではCR 1例で、PRの6例が観察されただけであった。従ってレスポンス ・レートはEEMの併用治療によって28%から40%に上がったという結果になった。さらに治療後6ヶ月以上の生存率を見ると、CT単独治療群では56%(14/25)であったが、CT+EEM併用治療群では84%(21/25)であり、一年以上の生存率は前者で20%(5/25)、後者で48%(12/25)であり、時間がたつに従って生存率の比率が広がっていく傾向があるように思われる。CT+EEM群ではカルノフスキー ・PS?スコアなどQOLも改善していたが、CT群では改善が認められた症例はなかった1、17)。
がんの一次予防に関する臨床研究も試みた。中国河北省の南部(渉県)と河南省の北部(林県)は食道がんが多発するので世界的に有名な地域である。文革後すぐに米国国立癌研究所の研究者が訪問して、その原因の調査研究を行ったが、いまだにその理由がはっきり解明されていない。従って河北省では癌重点病院として河北医科大学第四病院がその役割を果たしており,食道がんの診断、治療に優れた技術と経験をもっている。そして食道がん多発地帯では住民に集団検診を行っており、その中心的な役割を渡しておられるのが食道がんの世界的権威である旧知の叢慶文教授であり、先生のグループでは集団検診で内視鏡によって、病変部をよく観察しその病変部位の細胞疹によって病理診断を行っている。診断の結果、炎症性または修復可能の場合(グレードI)は、様子を見ることにするが、グレードIII以上に進行した食道がんと診断された患者さんの場合は、治療を受けてもらう方にまわることになっている。その中間と診断されたグレードIIの人が、今回の臨床試験の対象になったわけである。このようにグレードIIと診断された11例の患者さんにEEMを6ヶ月間飲んでもらって、その次の検診のときにどうなっていたかを検討することにした。初診時の病変部位は一例一例正確に記録されており、6ヵ月後の検診のときもそれと同じ部位がどうなっているかを詳しく判定するという、手のかかる集団検診で、今回の対象症例は11例であった。その結果グレードIIから前癌病変が消失した症例すなわちグレード0に改善した症例は11例中4例であり、またグレードII からグレードIの改善した症例は2例であった。その他の症例はグレードIまたはグレードIIか判定し難いのではあるが、若干の改善が見られたという結論になった。症例数は少ないのであるが、このような食道がんの集団検診を行っている地域は世界的にも珍しいところなので、EEMの投与によって食道がん予防効果ないし前癌病変の治療効果が観察されたのは大変興味深い結果である1)。
5)きのこと漢方薬
日本では漢方薬のうち定められた処方が保健薬として広く臨床に応用されている。中国最古の漢方生薬に関して「神農本草経」という書物があるが、そのなかにはきのこの生薬として茯?、猪?,霊芝などが記載されており、古くから中国伝統医学(中国では中医学、日本では漢方医学)でも、きのこ類が多く用いられてきた18)。現在日本で保健薬として用いられている漢方薬は百数十種であるが、その処方の中に茯?、猪?が生薬として入っている。茯?(ブクリョウ)は、マツホドの菌核で、五苓散、桂皮茯?丸など保健薬の漢方方剤に広く用いられている。その作用は利尿、健胃、鎮静などに効果があり、主なる多糖体はパヒマン(β−(1−3)−グルカン)であり、エブリコ酸などトリテルペンが含まれている。 猪?(チョレイ)はチョレイマイタケの菌核であり、やはり猪苓湯、五苓散など漢方方剤に入っており、利尿、止渇などに用いられる。その他薬用をうたうきのこは数多くあるが、文革後は「中薬大辞典」などに纏められている。そのうち日本では霊芝、冬虫夏草、猿頭茹(猴頭茹、ヤマブシタケ)などがよく知られている。霊芝は強壮、鎮静などに用いられているが、現在はがんやアレルギーに関する研究が多く、特殊なトリテルペンが分離されている。冬虫夏草はシナトウチュウカソウ(Cordyceps sinensis)の子座(子嚢胞子を含む)およびその寄生主である昆虫をそのように呼んでいる。強壮、鎮静, 鎮咳また病後の虚弱, インポテンツなどの治療に用いられるが、その媚薬的活性は興味がもたれている。ヒマラヤ山中など高山地帯にはいろいろな近縁種が見つかるので、薬用資源として探索されている。またチャーガはカバノアナタケの菌核で、ロシヤでは有名な生薬であり、学名は日本の菌類学者によって命名されている。このようにきのこ類の菌核は古くから生薬として珍重されてきた。
日本ではこれまで記述したきのこのほかに、サルノコシカケ科でただ一つマイタケが食用に供されており、そのD-フラクションの抗がん作用や作用機序について研究されている。中国では食用としてキクラゲ(木耳),シロキクラゲ, フクロタケがよく食べられており、薬膳料理にもよくきのこ類が用いられる。最近ではシイタケ、エノキタケ、ブナシメジもよく食べられており、ときにはその薬効をうたって売られており、その他のアジア近隣諸国でも我々の研究結果が知られるようになったと見受けられる。欧米諸国でよく食べられているのは、ツクリタケ(Agaricus bisporus)であるが、それにはアガリチンという変異原性物質が含まれており、そのことはよく知られている。 しかし東欧諸国ではヒラタケがオイスター・マシュルーム(牡蠣のきのこ)といって、よく食べられている。 ツクリタケの近縁種で、アガリクスまたはアガリクス茸として日本で売られているきのこは、ブラジル原産であるが、やはりアガリチンを含んでいるので、欧米の研究者たちは警告している。さらにこのきのこ味はまずいので、ブラジルでも食用にはなっていないし、最近では副作用も報告されている。またその学名が日本ではAgaricus blazei とされてきたが、詳細なる研究によって現在では、A. blasiliensisと訂正されているので、きのこの専門家も研究者もその学名の訂正を確認してもらいたい1,20、21)。
6)その他の作用
きのこ類には免疫賦活作用があるので、近年次々に出てくる新しい感染症の予防効果について注目されている。HIVはじめSARSウイルス、鳥インフルエンザウイルス、ノロウイルス、鯉ヘルペスウイルスなど次々に新しい病原性ウイルスが出てきて、近い将来インフルエンザが地球規模で大流行するのではないかと懸念されているが、抗生物質はウイルスに効かないので、とにかく予防が第一である。きのこ類の抗ウイルス作用に関しては古くから研究報告がなされているが、いずれもそのような感染症を克服するようなものは見つかっていない。予防としてどのくらい役立つか今後の課題であろうと考えられる。
わが国ではきのこ類は血中のコレステロールを下げる効果があるといわれいたので、シイタケについて研究され、エリタデニン(別名、レンチシンまたはレンチナシン)という物質が分離された。この物質は、動物実験では有意に血中コレステロールを下げたが、人では抗コレステロール作用が見られなくて保健薬にはならなかった。しかしシイタケそのものの摂取は人でもコレステロールを下げるという研究結果が報告されている。またシイタケ、エノキタケ、ツクリタケ、キクラゲはほぼ同じ程度のコレステロール低下作用があり、そのうちエノキタケが最もよかったという報告もある。また最近エノキタケ、ブナシメジ、ナメコを一週間食べた後に、血液の流動性を測定すると血液がサラサラと流れるようになり、その効果は青汁よりも優れていたという臨床結果が報告されている1)。
8)医食同源,薬食同源
きのこ類に多く含まれている多糖体はいわば食物繊維であるので一般にいわれている食物繊維としての食品の機能性がある。従って腸の健康のためになり、大腸がんの予防効果なども期待される。またきのこ類、特に食用きのこにはビタミンD3の前駆物質であるエルゴステロールが多く含まれているので、その摂取は骨粗鬆症の予防になるわけである。最近エルゴステロールを投与すると、がんの血管新生阻害効果があると報告されている1、19、22)。
その他きのこ類の生理活性については、抗アレルギー作用、抗血圧降下作用、抗血圧上昇抑制作用、抗血糖値上昇抑制作用、血小板凝集抑制作用などが報告されているが、わが国でよく摂取されている食用きのこには抗変異原性が認められている19)。
消費者は安全と安心を求めるので、古くから食習慣があるきのこを好むのは当然であろうと思われる。きのこ図鑑にただ食用と書いてあっても注意が必要なこともあると専門家の指摘があったので、昨年スギヒラタケで見られた例は特殊なことではあろうと思うが、いつもスーパーで見慣れない新しいきのこが出てくると問題はないか不安を感じる。しかしこの章で述べてきたようなきのこは、長い間わが国でよく食べられてきたきのこであるので、日本人のデザイナーフードまたは食品ピラミッドのなかに入れてもよいのではないかと考えられるのは理由があることであると思う22)。消費者は食の安心、安全を求めるので、比較的価額が安いエノキタケ、シイタケ、ブナシメジ、マイタケ、ナメコが、消費者にとっては安心かと考える。そしてきのこの国際学会でも日本のその種のきのこの摂取を勧めている。
近代医学では生活習慣病を克服することが重要な課題の一つであり、それにはなんといっても、 「予防 」が先ず第一である。これまでがんでも循環器疾患でも予防に関する提言が幾つかなされているが、そのなかには食品に関する項目が多いので、古い昔から東洋の伝統医学で言われてきた「医食同源、薬食同源」という言葉が改めて思い出される。我々も数多くのきのこ類の抗がん作用を研究してきたが、結局わが国で古くから食べていた食用きのこに優れた活性が見出されたので、この含蓄のある言い伝え(医食同源、薬食同源)に歴史の重みを感ずる。そしてそれは「野生の思考」であり、 「野生(生活)の知恵 」から生まれた言い伝えであるということができると思うが、さらにそこには西洋近代医学とは異なる思考、統合医学と呼んでもよい思考があるので、そこから新しい世紀の医学、薬学の参考になる思考が生まれてくるものと期待される。
参考文献:
1)池川哲郎: International J. Med. Mushrooms, 3, 291~298 (2001)
ibid. ,Vol. 7,in press (2005)、 Biotherapy, 14、945~951 (2000)
月刊「特産情報」<きのこと健康>連載(2002、11~2004、2),
「きのこ年鑑」 2004年度版、プランツワールド社(2004),
「きのこ好きほどガンになりにくい」主婦の友社(1997)
JAIMホーム ・ページ:http://www.jaim-net.org/
2)T.Ikekawa et al.: Jpn.J.Cancer Res.,(GANN), 59,155~157(1968), Cancer Res,29, 734~735(1969)、International J. Med. Mushrooms, Vol.7, in press (2005)
3)S.Shibata et al. : Jpn. J. Cancer Res., (GANN), 59,158~160(1968),
15)原めぐみ、花岡知之: 「農工研通信 」129号、2~6(平成16年)
16)馮威健、永井純、池川哲郎: Biotherapy、15,691−696(2001),
17)馮威健、永井純、新田和男、池川哲郎:Biotherapy、(suppl.II),15,129
(2001), Abstracts of 2nd World Integrative Medicine Congress, p. 195(2002)
18)江蘇新医学院編: 中薬大辞典、上海人民出版社
劉波著、難波恒雄ら訳: 中国の薬用菌類 自然社(1982)
19)菅原龍幸編: 「きのこの科学」朝倉書店(1997)
水野卓、川合正允編: 「きのこの化学、生化学」、学会出版センター(1988)